「茶道具名物譚 静嘉堂文庫美術館蔵 稲葉天目」岡田 直矢|第2回 2022-04-12 UP
完品の曜変天目は世界で僅か三碗しか現存しない。いずれも我が国にあり国宝に指定されている。中でも最も美麗とされるのが通称「稲葉天目」であろう。その様は冒頭に記した通り。曜変天目の光沢に魅入られた古人は懼れすら抱き、七歳の子の血(男女の子供の血とも言う)を用いたとの伝承すらある程である。本品を見ると、これもむべなるかな、という思いを抱く。
本品は柳営御物(徳川将軍家の所蔵品)であったが、伝承によれば三代将軍、家光が乳母、春日局に下賜、その後、同局の孫、稲葉正則(淀藩主)から同家に伝来した。
高橋箒庵(三越社長。茶道著述家)は同家で本品を見学、その模様について、茶入と茶碗を総覧した『大正名器鑑』、茶碗の部冒頭に記述している。「内部は星紋大小群を成して羅布し、紺瑠璃色、銀色、群青、紺碧等の色彩、紋中に散乱して、斑紋恰も豹皮の如く、光線一たび之を照せば、五彩燦爛相映發してチラチラと暈彩の変幻する、其光景如何様曜変の名目に背かず」と聊か興奮気味の筆致である。
写真:大正名器鑑より
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