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特別展「西行―語り継がれる漂泊の歌詠み」 五島美術館
特別展「西行―語り継がれる漂泊の歌詠み」 五島美術館
2022-11-20 UP
■展覧会の概要
西行(1118~90)は、平安時代末期から鎌倉時代初期という激動の時代を生きた歌人です。もとは「北面の武士(上皇の警護)」として将来を嘱望されていたにもかかわらず、23歳で突如出家した西行は、諸国を旅しながら情感あふれる和歌を生涯詠み続けました。西行の和歌と生き方は人々の憧憬の対象となり、死後も様々なイメージで語り継がれ、日本文化に多大な影響を与えてきました。
本展覧会では、稀少な西行自筆の手紙をはじめ、西行の歌や生涯を伝える古筆・絵画・文芸・工芸など、「西行」をテーマとした国宝4件、重要文化財20件を含む名品100点を一堂に展観し、中世から近現代まで、時を超えて語り継がれる「西行」を今までの展覧会では見られない新たな視座で紹介しようとするものです(会期中一部展示替あり)。
展示は4部構成で「漂泊の歌詠み・西行」を語ります。
第1部「西行とその時代」では、西行自筆の手紙と西行の歌集を中心に、西行を取り巻く人々の筆跡など、西行が生きた動乱の時代とともに西行の和歌の原点を紹介します。
第2部「西行と古筆」では、西行が書いたと伝えられる美しい古筆の数々を展示し、後世の人々が歌人の西行に抱いたイメージを展観します。
第3部「西行物語絵巻の世界」では、死後百年をたたずして編まれた『西行物語』をもとに作られた鎌倉時代から室町・江戸時代までの数々の絵巻物を、西行の生涯の節目となる場面を中心に紹介します。
第4部「語り継がれる西行」では、桃山時代以降に、西行の歌に触発され作られた絵画や工芸、能の演目などのほか、実像を離れ、小説の中で自在に活躍する新しい西行の姿を掲載した江戸時代の出版物や、西行をテーマにした近代の絵画も展示します。こうした作品の存在は、過去から現在まで続く歴史の中で、多くの人に西行の歌と伝説が浸透していた証しでもあります。
今回の展覧会では、西行の実像に迫るとともに、中世から近現代では、どのような「西行」像が結ばれていたのかを、展示作品を通して実感していただければ幸いに存じます。(続きは11月10日ごろ…)
■国宝「一品経和歌懐紙」と「落葉切」―西行の自筆と伝 西行の古筆
国宝 一品経和歌懐紙 西行筆 京都国立博物館蔵
今回の特別展「西行」では希少な西行の自筆を展示しています。なかでも国宝「一品経和歌懐紙」(京都国立博物館蔵)は西行が自詠の和歌を書いた仮名の作品として知られています。現在は西行の作品だけが軸装となっていますが、もともとは寂蓮(1139頃~1202)をはじめとする平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての歌人が詠歌をしたためた13枚の懐紙とともに折帖に貼り込まれていました。近代京都の実業家で茶人の上田堪一郎(号 堪庵)が軸装に改装しました。おそらく茶の湯の掛物として使用するためと考えられます。
落葉切 伝 西行筆 根津美術館蔵 展示予定期間 10月22日~11月13日
落葉切 伝 西行筆 公益財団法人阪急文化財団 逸翁美術館
一方、西行を筆者と伝える古筆切のなかでも、江戸時代以降、とりわけ茶の湯の掛物として珍重されてきたものに「落葉切(おちばぎれ)」があります。今回は「寺落葉」の題がある3幅のうち東京・根津美術館と大阪・逸翁美術館の所蔵品2幅が出品されています。これらは、後鳥羽上皇(1180~1239)が建仁元年(1201)10月19日に四度目の熊野詣の道中に那智で催した歌会の題の一つが「寺落葉」であったことから、いわゆる「熊野懐紙」の断簡であるという説があります。西行歿後の作品であることから、西行の自筆ではありません。また、江戸時代後期の大名茶人の松平不昧(1751~1818)が所持していたことで知られる、現在は兵庫・香雪美術館が所蔵するもう1幅の「落葉切」は、古筆研究家の小松茂美(1925~2010)の研究により、後鳥羽上皇の御詠と判明しました。
茶の湯で古筆切を掛物として使用するのは、近代以降に盛んとなりました。それまでは、藤原定家(1162~1241)の書のほかは、茶会ではあまり使われていなかったようです。西行と藤原俊成(1114~1204)・定家父子との交流は、「円位書状 西行筆」(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)によっても知ることができます。こうしたことから、西行は定家周辺の人物として、茶人の憧憬を集めたと思われます。
■茶道具の銘と西行の和歌
今回の展覧会では、五島美術館所蔵の茶道具2点を出品しています。「唐物肩衝茶入 銘 安国寺肩衝 一銘 中山肩衝」と「黄瀬戸平茶碗 銘 柳かげ」です。そのうち、「安国寺肩衝」の別銘「中山肩衝」についてのエピソードをご紹介します。
唐物肩衝茶入 銘 安国寺肩衝 一銘 中山肩衝
この中国産の唐物肩衝は、全体に掛かる黒味の勝った黒褐釉の光沢と、二重掛けの藁灰釉による白鼠色の斑文が美しい大形の茶入です。銘の「安国寺」は、戦国時代の僧侶安国寺恵瓊(?~1600)が所持したことから付いたものです。
「中山肩衝」の別銘が付いたのは、『大正名器鑑』によれば次のようなエピソードがあったようです。関ケ原の戦いののち徳川家康(1542~1616)から「安国寺」を拝領した津田秀政(興庵 1546~1635)が茶会を開き、その茶会に細川三斎(忠興 1563~1645)が招かれます。三斎は、もともと「安国寺肩衝」を所持していましたが、のちに手放したといわれています。津田興庵の茶会で「安国寺肩衝」と再会した三斎は、袂に茶入を入れて持ち帰ってしまいます。その際に言い置いたという西行の和歌「年たけて又越ゆべしと思きや命成けり佐夜の中山」の歌意から、「中山肩衝」という別銘が付けられました。細川家の家記である『綿考輯録』によれば、三斎は興庵に黄金五百枚を遣わしたといいます。
西行は、若い頃に奥州へ旅をし、再び晩年にも出かけています。「年たけて」の歌はその時に詠ったものです。三斎が若い頃に手放した茶入と、老年になって再会したことを「命成けり佐夜の中山」(命あってのことだなぁ)の歌意に掛けているのでしょう。三斎は利休七哲の一人に数えられる茶人であり、父の幽斎は古今伝授を受けた文化人です。三斎も和歌に通じていたからこその逸話といえます。
文:五島美術館学芸課長 砂澤祐子
特別展「西行―語り継がれる漂泊の歌詠み」 五島美術館
Taken by Moonlight: The Saigyo Tradition in Japanese Art
■2022年10月22日(土)─12月4日(日)
■入場料 一般1300円 高・大学生1000円 中学生以下無料 入園のみ300円
※入館された方は、入園は無料です。ただし、日没や悪天候等によっては入園をご遠慮いただくことがあります。
※ 障害者手帳をお持ちの方、ならびに介助者の方1名は200円引。
※館内入場者数制限の都合上、団体割引(20名以上200円引き)は休止しています。
■新型コロナウイルス感染症の感染予防と拡大防止のため、入場および観覧に際し、制限・制約やご協力をお願いする場合がございます。
■会期・休館日・イベントの予定が、やむを得ず変更や中止となる場合もありますので、ご来館の前に当館ホームページ等で最新情報をご確認ください。
■会期中一部展示替があります。また、当館には常設展示はございません。
■館内整備のため休館=展示替のため休館= 2022年12月5日[月]ー12月9日[金]
■次回展示=館蔵 茶道具取合せ展 2022年12月22日[土]―2月4日[日]
■公益財団法人 五島美術館 〒158-8510 東京都世田谷区上野毛3-9-25 TEL050-5541-8600(ハローダイヤル)/03-3703-0661(テープ案内)
■五島美術館ホームページ=
https://www.gotoh-museum.or.jp/
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