【茶の美談】松月茶会 薄茶席 主:森田俊雪氏 2025-07-09 UP

寄付

【銀座美術 森田俊雪氏、以下森田】:ご正客様、本日はようこそお越しくださいました。

【川上宗雪家元、以下家元】:こちらこそ、ご案内いただきましてありがとうございます。

【森田】:だいぶお待たせしてしまったようで…。





【家元】:あらかじめ、昼頃に来ると待つかもしれないと伺っておりましたので、覚悟して参りました。

【森田】:皆様も本日はお越しくださいまして有難うございました。

【森田】:実は、私にとって本日が初めての席持ちでして、何やかやと準備に追われていたら声が枯れてしまいました。先ほどの席で名心宗匠から「恋煩いじゃないか」と冗談を言われました(笑)。お聞き苦しいところもあるかもしれませんが、どうぞごゆっくりお過ごしください。

【家元】:初めての席主をお務めになるということで…。

【森田】:ええ、初めてなんです。席主というのはなかなか難しいものですね。

【家元】:普段は席主を裏方として支えていらっしゃいますものね。

【森田】:お客様の道具を整える際に、あれこれと思案するのですが、たとえば「この時期にこの水指では暑苦しくないか…」といったことを、何ヶ月も前から考え始めます。今回は濃茶席の古角さんとも相談しながら色々と調整を重ねました。私が「富士釜を使おう」と申しましたら、「自分も使う」と言われ断念し、「蛤の香合を」と申しましたら、それも止めになりまして(笑)。右往左往しながらも、なんとか形になりました。



【家元】:お点前はご子息で、親子でのお席というのも良いですね。

【森田】:江戸千家の顔に泥を塗らないよう、気を引き締めて点前をしております(笑)。それを取り繕うために、私がたくさん喋らねばならないというわけで(笑)。

【家元】:いえいえ、立派なお点前ですよ。床は?



【森田】:お軸は鈴木其一です。

【家元】:滝登りの画ですね。



【森田】:はい。其一は63歳まで存命で、これはおそらく50代の頃の作と見ております。抱一の弟子でありながら、円山応挙への敬慕もあったようで、神戸の「大乗寺」という寺にある応挙の作品と作風が似ております。その寺は、応挙が若い頃、収入のない時期に住職が援助したという由緒があります。応挙が亡くなった翌年に其一が生まれておりますので直接の接点はありませんが、かなり意識して描かれたのではと感じております。

【家元】:琳派の絵師たちは、直接の師弟関係よりも、自ら敬う存在を心の師と仰ぐ「私淑」の形が多いですね。直接のつながりがなくとも、精神的に受け継がれる系譜というのが琳派の魅力でもあります。

【森田】:そうですね。たとえば抱一も、宗達や光琳とは直接の関わりはありません。
先ほど名心宗匠が、鯉が隠れている様子が「恋」を表しているのではないかと仰っていて。忍ぶ恋、片思い、あからさまでない恋心──そんなところまで考えて描いたのではないかと。
 花入は、二代・住山楊甫の作で、「龍門」と銘がついております。皆さまが茶席に入られたとき、床の間が一幅の額のように感じられるように意図して飾りました。花は紅葉と木苺です。紅葉は水揚げが悪く、少し心配しております。花は本当に難しいですね。たまたま自宅に枝垂れていた紅葉があり、使えるかと思い…。



【家元】:ご自宅からお持ちになったのですか?

【森田】:紅葉はそうです。木苺は銀座で求めました。

【家元】:香合はどちらのものですか?



【森田】:三井高棟作、南鐐製の亀甲鶴です。北家十代のものです。




【家元】:硯は?

【森田】:観空庵旧蔵で、前山久吉の所持していたものです。彼は三井銀行を経て、王子製紙や東京信託などの役員を務め、後に浜松銀行頭取や共同保全会社の社長を歴任した実業家であり、コレクターでもありました。
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