茶の美 一周年記念特別企画 「座談会」 2022-12-21 UP

 

 昨年の秋に茶の美が発足し、本年2022年9月をもちまして一周年を迎える事が出来ました。これもひとえに皆様の温かい御厚情の賜物と心より深く御礼申し上げます。一周年記念特別企画として、7店舗が集い座談会を行いました。前半は一年間の「回顧と展望」、後半は各店が逸品を持ちより「茶道具賞玩」という内容となっております。最後までどうぞお楽しみください。
 
『回顧と展望』

小さくしていく新たな形。

那須屋 野口明嗣さん(以下、野口):最初は2021年9月にコロナで茶会などが出来ないので、なんとか茶道界を盛り上げようと考え、玉鳳堂さん、河善さん、那須屋でスタートしました。そのあと、11月に銀座美術さん、2022年2月には齋藤紫紅洞さん、5月に壽泉堂美術さん、7月に古角商店さんにご参加いただきました。

古角商店 古角博治さん(以下、古角):私の場合はもう歳なので、徐々に仕事を縮小しようと思っていたのですが、皆さんから声を掛けられたので訳も分からず入りました。ITの事は何も分からないのですが…。娘に、「お父さん、仕事を縮小するって言ってたのに茶の美?!どういう事~」なんて言われちゃったよ(笑)

玉鳳堂 山田高久さん(以下、山田):もうちょっと働きなさい!!と、神様が仰ってるんですよ(笑)メンバーも和気藹藹で本当に良かったです。

那須屋 野口明嗣さん(写真右)

野口:ITを利用してお客様に品物をご覧いただくということは、既存の店を持たなくても良いという事にも成り得るので、小さくしていく新たな形かもしれませんね。

茶道具は生き物。

古角:そうかもしれないけど、茶道具は図録やオンラインなどの写真で見るより、こうして茶室で見ないと駄目なんだよね。最近は茶室を作ってもみんな照明設備を付けちゃうけど、それは駄目で自然光じゃないと良く見えません。美術館に行くと上からの照明で品物を照らしていますが、それだと全く良く見えないんです。日本の美術を見ようと思った時、光は全部障子越しの横からの光です。谷崎潤一郎の陰翳礼讃という本があります。なぜ、この棗は真っ黒だったのか?真っ黒からこんなに金色で派手になっていったのか?仏壇がそうなっているのか?仏間は薄暗い奥まったところにあるから、仏様は金色になっていないと目立たない。微かな光が当たることにより、仏様の金が良く見えます。それが現代において、煌々としたライトに照らされたら全然面白味が無いんです。夜になったら行燈や手燭で品物を見るのが良い。自分の経験で一番あったのは、江戸千家 川上宗雪家元のところで牧谿の「遠浦帰帆図」を見に行くという会があって、夜の真っ暗な中に皆集まって、手燭だけで鑑賞したところ、炎が揺れると船が動いているように見えるんだよ!!これはすごい素敵だな~欲しいな~と思いましたが、牧谿は高くて買えるわけない(笑)

古角商店 古角博治さん

河善 河合知己さん(以下、河合):一番好きで良く見ている茶碗で「六地蔵」という古井戸茶碗があるのですが、展示の照明の当て方によって随分と見え方が変わってきます。古角さん仰る様に茶室の柔らかい光で鑑賞するのが一番良く見えます。

古角:あと、茶道具は使わないと駄目だね。光悦会で鼠志野茶碗 銘 峯紅葉が出た時に、お偉いさんが水屋に来る度にお茶を点てていたら、三日目には艶が出てすごく良い状態になりました。

山田:私も熊川茶碗を以前扱った際に、後に茶室で実際に使っている姿を見た時には景色が全く別の物に見えました。

河合:山田さんも扱う前にお湯に通してたら、もっと高く売れたんじゃないでしょうか…

一同:(大笑)
 

古角:赤坂水戸幸の幸太郎さんも「茶会の準備の日は、箱から出したらすぐに湯通ししてお茶を飲みなさい」と仰っていました。茶道具は使えば使うほど生き生きとしてきます。

銀座技術 森田大揮さん(以下、森田):先日、五島美術館の手伝いをさせていただいた時に、重美の釜を茶会で実際に使ったのですが一日目より四日目の方が釜肌に艶が出て景色が全く変わってすごく良くなりました。
 

銀座美術 森田大揮さん

河合:茶道具は使える、それが一番良い事ですね…

山田:茶道具は生き物!

壽泉堂 美術 樫本昌大さん(以下、樫本):値段云々じゃなくて使って美的感覚で楽しんでも貰う事が一番です。
玉鳳堂 山田高久さん(写真中央)
 
茶道具商の情報発信の基盤。

河合:こうして7店舗茶道具商が集まったので、オンラインで茶道具をご覧いただくだけではなく、茶会や展示会などを開催し茶道具が一番良く見える環境でお客様にご覧いただく事も挑戦したいですね。

森田:あと、今までは定期的に漠然と道具を出していましたが、お客様のご要望に合わせて、例えば炭道具・懐石道具・酒器など脇の道具も含めてテーマを決めて展観できればと思っております。


壽泉堂 美術 樫本昌大さん

樫本:それは面白いね。茶の美サイトのお問合せページや、SNSのメッセージ機能を使って、何かご要望があればお気軽に仰っていただければと思います。最近は茶の湯の世界も世代交代が進んでいます。茶会で水屋を手伝うと、普段当たり前に使っている言葉や知識が分からない方が多くなっていると感じます。ITを使ってお客様と繋がれる時代になりましたので、ご要望も然りQ&Aじゃないけど道具の事で分からないことがあれば何でもご相談いただければと思います。

齋藤紫紅洞 齋藤琢磨さん(以下、齋藤):お茶室でなくてもお茶は飲めるので、茶の湯に興味がある新しい世代の方にも茶箱や茶盆点てで気軽に楽しめるようにカジュアルな楽しみ方を動画配信で提案するのも面白いと思います。お蔭様でメルマガやSNSのフォロワーも順調に増えています。茶の美ファンの方々へ、品物や展示会のご案内は勿論ですが、茶の美談の様な茶の湯を楽しむために役立つ情報も継続して提供できればと思っております。来年も日本橋・京橋骨董まつり「東京アートアンティーク2023」に茶の美が出展いたします。近くになりましたらメルマガ・SNSでご案内いたしますので、興味のある方がいらっしゃれば茶の美のフォローをお願いいたします。
齋藤紫紅洞 齋藤琢磨さん
 
古角:茶の美で商売をする際に、お客様がどんな道具を持っていて、どんな風に使うかが分からないので、今まで感じたことのない不安があります。私が知っている、形に嵌った道具の使い方以外にも素晴らしい使い方があるかもしれませんので一概に否定はしませんが、我々茶道具商は日本人が大切にしてきた本来の茶の湯を楽しんでいただけるように茶道具の使い方や見せ方をサポートしていかなければならないと思っております。千宗屋宗匠が慶応大学の学生時代にお茶を美味しく飲むための研究を長期に渡りされたそうです。お茶やお湯の分量や点て方などあらゆる事を試した結果、お茶室でお点前をして飲んだお茶が一番美味しかったそうです。茶室という空間、床の間、点前座の飾付、お点前など、どれか一つ欠けても駄目なんです。我々茶道具商は、それを理解した上でお客様に接していかなければならないと思います。

河合:古角さん、良い話を有難うございます。茶の美の古角さんの商品説明も大変お上手で、品物の説明だけでなく、どの様な時に使えるかが書いてあるので読んでいて親近感が湧きます。是非今後の参考にしたいです。
 我々は対面でお客様に品物を見せて商売を行ってきました。コロナで対面販売が出来ない中で、茶の美やSNSをはじめ、果たしてどうなんだろう…と言うところから始まりました。その中で実際に品物をお買い上げいただいたという事実があるので、自分自身とても驚いています。茶道具商とお客さんの世界は、この人は自分のお客様だという事が無きにしも非ずの中で、ネットを始めたことで今まで全く知らなかったお客様が沢山いることが分かりました。茶の美を通して、お客様との新しい出会いが多く出来た事が何より良いことだと思います。フォロワーの方の数もどんどん増えているので、もっと茶の美で楽しんでいただき、自分たちの商売にも繋げていければと思っております。

河善 河合知己さん(写真右)
 
野口:お茶に纏わる情報が集約できればと漠然と考えて始めたことが、皆さんの力によって少しずつ形になってきたので、更に発展していく事を切に願うばかりです。茶の美をプラットフォーム化する、いわゆる茶道具商の情報発信の基盤になればと思っており、そこから派生することは余程の事がない限り、どんどんチャレンジ出来ればと思っております。私は茶の美だけでなく、色々な「美」を作りたいと思っております、手仕事の美とか職人の美とか…世の中には沢山の美があります。一人でも多く、このサイトを見て下さるファンの方を増やしたいですね!



山田:最初はどうなるかと思っておりましたが、こうして一年間順調に運営することが出来ました。色々なタイプの茶道商が集まったので、とても良い雰囲気で運営出来ていると思います。齋藤さんが仰る様に、現代人の生活スタイルに合わせて入口部分のハードルを下げて、「茶の湯に興味あるけど、どうかな~」という方にも、茶の美をご覧いただくことで、段々と茶の湯との距離を縮めてもらい、茶の道の指針になればと考えております。そして古角さんが仰るように、ネットだと道具一つ一つの情報に偏よりがちですが、茶の湯は調和が大事です。今日こうして茶室の中で道具を拝見するだけで見え方が変わってくる事を再認識しましたので、茶会や展示会を開催し、品物の良さや使い方をお客様に体現いただく事にも挑戦していきたいと思います。あとは、私も茶の美で購入したお客様から色々なご意見を伺うことができました。森田さんや樫本さんが仰っていたお客様の声を拾い上げて、茶の美をより良い物にしていきたいと思います。今後ともご愛顧いただけますようお願い申し上げます。

河合:皆さん有難うございます。それでは各自お持ちいただいた逸品を賞玩して参りたいと思います。
 

座談会後半 「茶道具賞玩」は来年(2023年)に掲載予定です。来年もどうぞよろしくお願いいたします。どうぞ良いお年をお迎えくださいませ。

▼茶道具賞玩『鈴木其一筆 桃に羽子板図 八百善旧蔵』|座談会後半
https://cha-no-bi.com/posts/view/93
 
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