「数寄者」の現代 ― 即翁と杉本博司、その伝統と創造 荏原 畠山美術館 2025-10-15 UP

荏原 畠山美術館が新館開館一周年を記念して開催する展覧会

「数寄者」の現代 ― 即翁と杉本博司、その伝統と創造(会期:2025年10月4日〜12月14日)は、数寄の精神を現代的に読み替える挑戦的な試みである。

本展は、創設者・畠山一清(号・即翁)が遺した茶道具コレクションと、現代美術作家であり建築家でもある杉本博司の新作・蒐集品を組み合わせた構成をとる。杉本は、美術館新館の設計を手がけた「新素材研究所」を主宰する人物でもあり、自らの建築空間を舞台に、長年の関心を注ぎ込んだコレクションと作品を提示する。この構造は、展示空間そのものを含めた「総合芸術」としての発信であり、国内外の美術界に強いインパクトを与えるだろう。

即翁は「近代数寄者の最後の世代」と評される存在であった。彼は単なる蒐集家ではなく、茶の湯を核に、美術を共有する「場」を創出することにこだわり抜いた。その理念は本館に結実し、今日に受け継がれている。対して杉本は、写真・建築・舞台芸術など領域を横断しながら、日本文化を換骨奪胎して新たな光を差し込む作家である。

二人をつなぐのは「数寄」という概念だ。数寄とは、趣味の領域を超えて文化全般に通じる美意識の総体であり、時代を超えて人々を惹きつける磁場を持つ。本展では、近代の茶人としての即翁の眼差しと、現代の「数寄者」とも言うべき杉本博司の実践が交錯する。その邂逅は、茶の湯が担ってきた「美」と「場」の思想を再考させる契機となるに違いない。

本展を通じて浮かび上がるのは、数寄の伝統と創造が常に「いま」を生きるものであるという事実である。荏原 畠山美術館が一周年の節目に提示するこの企図は、茶と美術の交差点に新たな地平を拓こうとしている。




現代に「数寄」は可能か? 杉本博司
その昔、利休の頃、茶室は囲うと言われた。造るのではない。簡素な材で場を囲い、雨露を凌ぐ屋根を架ける、侘び茶の精神だ。私はこの荏原 畠山美術館新館を、設計者として大きなコンクリートの壁で囲った。現代の茶室と思いなして。
この囲いの中で私の集め、また作った茶道具を披露することになった。こんな作家冥利に尽きることはない。自画自賛だ。



|杉本博司|(1948~)
東京生まれ。現代美術作家。ニューヨークおよび東京を活動の拠点とする。その活動分野は、写真、彫刻、演劇、執筆、書、陶芸、和歌、料理と多岐に及ぶ。2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ受勲。2017年文化功労者。2023年日本芸術院会員に選出。
photo: Masatomo Moriyama



|即翁 畠山一清|(1881~1971)
金沢市生まれ。能登畠山氏の後裔で先祖は七尾城主。ポンプ販売から製造を一手に担う荏原製作所を創業して発展させた実業家。一方で能楽と茶の湯を嗜み、即翁の号を持つ数寄者としても知られる。数多くの美術品を蒐集し、晩年には広く一般に公開することを意図して畠山記念館を設立した。
写真提供:荏原 畠山美術館

主な展示作品


重要文化財 清滝権現像
鎌倉時代〈後期展示〉
荏原 畠山美術館蔵
写真提供:荏原 畠山美術館


重要文化財 割高台茶碗
朝鮮時代〈通期展示〉
荏原 畠山美術館蔵
写真提供:荏原 畠山美術館


十一面観音立像/二十五菩薩来迎図
平安時代/鎌倉時代
小田原文化財団蔵 杉本コレクション
Photo: Masatomo Moriyama

開催概要
会期:2025年10月4日(土)~12月14日(日)※会期中一部展示替えあり
前期:10月4日(土)~11月9日(日)/後期:11月12日(水)~12月14日(日)
開館時間:10:00―16:30(入館は閉館30分前まで)
会場:荏原 畠山美術館 本館2階展示室、新館展示室1(2階)・2・3(B1階)
〒108-0071 東京都港区白金台2-20-12
■休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)、11月11日(火)
■入館料:一般1,500円、高校生・大学生1,000円(中学生以下無料、要保護者同伴)
※オンラインチケット割引あり 主催:荏原 畠山美術館
■特別協力:公益財団法人小田原文化財団

展示構成
.「数寄者」の現代Ⅰ―即翁 畠山一清の茶事風流 【本館2階展示室】
即翁が1954(昭和29)年秋に催した新築披きの茶会の道具組を軸に当館コレクションで構成。
.「数寄者」の現代Ⅱ―杉本博司 茶道具 【新館展示室1(2階)・2・3(B1階)】
杉本博司の作品およびコレクションで構成。

関連イベント(事前申込制)
▶鼎談「数寄者、諤々斎と語る」10月11日(土)14:00~15:30※定員に達したため受付終了
出演:杉本博司氏、千宗屋氏(武者小路千家第15代家元後嗣)、内田鋼一氏(陶芸家、造形作家、アートディレクター)
▶講演会「新生 荏原 畠山美術館、デザインとその設計手法」11月8日(土)14:00~15:30
講師:榊󠄀田倫之氏(建築家・新素材研究所)
▶対談「杉本博司さんの楽屋裏」11月22日(土)14:00~15:30※定員に達したため受付終了
講師:小池一子氏(クリエイティブ・ディレクター)、橋本麻里氏(江之浦測候所 甘橘山美術館準備室室長)
▶鑑賞会(本展のみどころ紹介)各10:30~11:30
第1回目:10月4日(土)講師:岡部昌幸 (当館館長)※終了
第2回目:12月6日(土)講師:水田至摩子(当館学芸課長)
※詳細・申込方法は当館ウェブサイトをご覧ください。 URL:https://www.hatakeyama-museum.org/exhibition/000207.html
※事前申込不要の学芸員によるミニトークも開催予定です。

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