座談会 尺八竹花入 益田鈍翁歌銘入 2023-10-01 UP



銀座美術 森田俊夫さん(以下、森田):鈍翁の花入で、歌が書いてあるんですけど「いにしへを忍ふる雨と誰か見ん花もその世のともしなけれは」。昔のことを密かに思い出すような涙を、誰かに見られたかもしれない。しかし、雨が花に降りかかっているが、その事を知る昔の友は居ないのだから(見られてはいないだろう)という意味。西行法師の山家和歌集の歌です。追善じゃなですけど誰かを思って書いたのでしょうか、箱には昭和庚午(昭和5年)の新年の福引と書いてあります。新年の福引でこういった歌の物を配るのかなと、皆さんの意見を伺えればと思います。



壽泉堂美術 樫本昌大さん(以下、樫本):家元では正月の初釜で一行だったり茶杓が当たる福引きをすることはよくありますが…

那須屋 野口明嗣さん(以下、野口):それこそ鈍太郎の茶碗なんかも、江岑の50回忌の時に50個作った中の一つを皆でくじを引いて、高田太郎庵(本名:栄治)がもらって、うれしくて鈍太郎の太郎を使って太郎庵と名乗りました。後に益田孝が鈍太郎を所有し、鈍翁と名乗りました。昔はよく慶事と弔事を問わず、何かと福引をやって物を分けたようです。






河善 河合知己さん(以下、河合):福引で鈍翁があげたのか、貰ったのか…

古角商店 古角博治(以下、古角):福引であげたんでしょうよ。貰ったら、箱に貰ったと書くわけですから。



樫本:この年は鈍翁は何歳でしょうか?

河合:83歳。91歳まで生きてました。

古角:「世の友」というのは「あの世の友」という意味ですから、前の年に友達が亡くなって、それを偲んで詠んだ歌ではないでしょうか。



野口:昔の人で83歳というと、長生きの方だと思います。故に、単に鈍翁の心境を表した歌を書いただけとも考えられます。

森田:奥さんが7~8年前に亡くなっているんで…

河合:「友」だから、奥さんのことではないと思います。鈍翁の傍には、高橋箒庵、馬越恭平、根津青山、原三渓など、近代数寄者と呼ばれる茶友が沢山いたので、恐らく毎年新年に呼んでいた茶人仲間の誰かが亡くなって、それを偲んで詠んだ歌だと思います。

古角:近代数寄者ね~、鈍翁が皆引っ張って仲間に入れたようなもんだからね。

河合:鈍翁も最初は弟の益田克徳(こくとく)が先にお茶を始めて、その少し後からはじめています。

樫本:克徳さんって古美術商の?

河合:それは益田紅艶(こうえん)。益田三兄弟の末弟。京橋にもお店があったのですが、元々は芝公園の隣に住んでいたので「こうえん」と呼ばれていたいたようです。字は違いますが。屋号は「多聞店(たもんてん)」。よく札元で出てきます。

森田:益田家は各人がご活躍されていますから、伝来ものも多いですよね。
そうしたら、この花入は鈍翁と近しい関係性の人に当てたのかもしれないですね。そう考えると、親しみを感じやすい銘に思えてきました。


写真:銀座美術主人 森田俊夫氏

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