速水流茶会の記 岡田 直矢 2023-04-20 UP

 令和四年十月十五日、東京の茶道具肆、壽泉堂の茶室で速水流八世家元、速水宗燕氏により釜が懸けられた。
 同流は裏千家八代家元、一燈の高弟、速水宗達が創流したもの。周知の通り、一燈は如心斎や川上不白と共に七事式を制定するなど、千家流の侘び茶を大成した人物の一人である。その指導下にあった宗達は侘び茶草創期より前の茶の湯をも追究した。例えば室町時代、後花園天皇が足利義教に下賜した青磁雲龍水指、鎌倉茄子、花山天目の三名物を用いた台子点前を復興している。このような古式ゆかしき茶法は特に光格天皇の時代に宮中で尊ばれ、同流は皇族、公家、大名らの間で流行した。
 また、宗達は「和敬」に代わり「敬和」を提唱した。前者が自らの精神を磨くことを意味する一方、宗達は相手ひいては自然に対する畏敬を第一とし、この意味を後者に込めたのである。
 


 会記
床 二世宗嘩筆 半夜秋風江色動 満山寒葉雨聲来
 花   秋明菊 藤袴
 花入  三世宗筧作 竹 尺八 銘千秋
 香合  御菩薩焼 宝珠 宝尽紋様 
三世宗筧在判
 風炉釜 朝鮮切合    高木治良兵衛造
   敷板  金森宗和好 宗達再好 八角
               近藤道恵造
 水指  備前 曳舟 銘雨夜 三世宗筧箱
 茶入  伊賀 歌銘柞之紅葉
     うつり行く柞の紅葉人とはば
     いかに石田の小野の秋風
宗達内箱 三世宗筧外箱
   仕覆  古金襴
 薄器  二世宗嘩好 蔦棗
 茶杓  二世宗嘩作共筒箱 歌銘ときは
     かみ山の榊も松もしげりつゝ
     常盤かきはのいろぞ久しき
 茶碗  二世宗嘩作 銘山居
   蓋置  竹 四世宗汲在判
   建水  瀬戸
 茶   宗燕好 清鐘之昔  祗園辻利詰
 菓子  錦秋          源太製
   器  久田宗全好 銘々皿 乾漆

 諸道具のうち印象に残ったものについて述べると、床は茶掛けには珍しく楷書で明確に書かれた二行。花入は細く背が高い。これが畳に置かれた。裏面には銘と花押が書かれ、銘「万歳」の掛花入と一双をなす。香合は可愛らしい宝珠形。白い地に藍や茶色で宝尽の文様が描かれる。御菩薩焼(みぞろやき)は古清水焼の一種である。
 

 水指は備前。南蛮にも似通う濃い茶色の肌で、笠を思わせる大きな蓋の曳舟形。
 茶入はやや背が高い肩衝。轆呂目がしっかりと回るため、捻貫手と称してもよいかもしれない。焦げ茶色の地に黄色い雪崩がある。牙蓋は時代を経て茶色と化している。
 仕付棚に置かれた薄器はずんぐりとした蔦棗。蓋が真塗の一方、身は蔦の材を活かした茶色で、対照をなす。
 茶杓は胡麻竹。節はやや高い位置にあり、櫂先は剣先型である。
 茶碗は二世宗嘩の手造りで、紅葉を思わせる色の赤楽。
 秋夜を描いた唐詩の一節の床、水指銘「雨夜」、茶入銘「柞(ははそ)之紅葉」、茶碗銘「山居」と、晩秋の山の侘びしい風情を描いた席であった。しかし、これ以上に関心を惹かれたのは、通奏低音をなす侘び茶とそこに垣間見られる華やぎである。即ち用いられた諸道具は侘び茶に徹したもので、姫宗和や仁清の風情とは異なる様に感じられた。他方、帛(ふくさ)は鮮やかな二色の鱗形に染め分けられている。当日用いられたのは宗達が好んだ紫と古代青から成る松重。各の色は茶の湯における唐物と和物の世界観を表す由。これ以外にも多くの種類があるが、いずれも十二単の襲目に想を得たものである。また、予想に違い宗燕氏自身による点前は裏千家の点前とはかなり異なり、かつ裏千家の好み物等は一切用いられなかった。これらは同家に端を発する一方、宮中の茶礼として発展したという速水流の融合的な性格を表すと思われ、特に興味深かった。
 なお、当日は壽泉堂主人、樫本昌大氏による釜も添えられ、数寄者道具が多用された一席は既述の速水流の席と好対照をなしていた。



八代 宗燕家元
 

■茶道速水流のご紹介
 速水流とは、江戸時代中・後期、速水宗達という茶人によって創始された流派です。宗達の実家は御所の隣に構えた御典医でしたが、宗達は医学ではなく儒学や和学を好み、裏千家八代一燈宗室から茶湯を学び21才で茶人として自立が認められました。その後、流祖宗達は日本の茶の湯の起源から侘び茶にいたるまでの経緯を学術的に追究し、足利義教と後花園天皇の茶の湯の点法とその茶道観を再興しました。流祖が成立した雲居の方々のための丁寧で優雅な所作は宮廷風といわれ光格天皇(明治天皇の曽祖父)から熱く支持をされ、弟君の聖護院宮盈仁法親王や公家や大名の師匠となりました。また、関白一条忠良公から「滌源(てきげん)」と名を賜り、速水流家元茶室は「滌源居」となりました。
 速水流の特徴は、平安時代の十二単を表す色目襲(いろめがねさね)の帛(ふくさ)です。2色を裏と表で使い分け、高貴な方のために最も清浄な面がわかるようになっています。作法は新行草、表裏、陰陽で格を表現しています。
 宗達の茶は、従来の「茶禅一味」に代表される精神修養的な茶道観とは違い、「茶道とは茶を介して人と人とが誠心の交わりを結ぶ礼式」と提唱しており、茶道速水流の理念として現代にいたるまで大切に引き継がれています。

◎東京のお稽古について
月に2回(第2・4の金・土曜)に八世家元が京都から教えに来られます。
神谷町駅徒歩2分の壽泉堂(じゅせんどう)
105-0001 東京都港区虎ノ門5-4-10
▼速水流ホームページ(お問合せ)
https://hayamiryu.com/index.html

 
茶道具特別展 東京トートアンティーク
茶の美メールマガジン