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法隆寺金堂焼損壁画保存活用支援茶会の拝見記
法隆寺金堂焼損壁画保存活用支援茶会の拝見記
2023-06-01 UP
令和5年5月17日・18日、東京美術倶楽部の主催により「法隆寺金堂焼損壁画保存活用支援茶会」が行われました。当日は連日晴天に恵まれ、最高気温が三十度を超え真夏日となり5月とは思えない暑さでした。茶会には文化庁長官 都倉俊一氏、福岡ソフトバンクホークス取締役会長 王貞治氏をはじめ、全国から数寄者、茶の湯愛好家が参会されました。
濃茶席は遠州茶道宗家13世小堀宗実家元が懸釜されました。寄付には、双幅で「盆踊り」と「茶摘み」の絵賛を掛けられました。賛を小堀宗中・宗本・篷露が書き、絵を狩野立信・守経・中信が描いた6人の合筆で、箱は新潟新発田藩の溝口翠涛公が書いています。5月の新茶の時期に相応しい掛軸です。香合は堆朱の琴高(きんこう)仙人図。琴が巧みな仙人が龍を捕まえに鯉に乗って水中から現れている文様で、端午の節句と初風炉を祝うお目出度い趣向です。 堆朱は素地に漆を塗り重ねて彫漆(ちょうしつ)する非常に時間と手間の掛かる技法で、細かい波の文様、側面には七宝文様などが緻密に彫られています。炭斗は唐物 籐組で「天・下・泰・平」の字が四方に編まれています。お席主の先代はシベリアに抑留され大変なご苦労をされました。ロシアのウクライナ侵攻から一年が過ぎ、平和を願うお席主の思いが窺えます。何よりもこうして平穏にお茶が出来ることに感謝し、さあ本席へ…
濃茶席の様子
亭主 遠州茶道宗家十三世家元 小堀宗実氏(一番左)、正客 福岡ソフトバンクホークス取締役会長 王貞治氏(左から三番目)、次客 文化庁長官 都倉俊一氏、三客 東京美術倶楽部 代表取締役社長 中村純氏
本席には遠州公の次男 小堀権十郎が隷書体で「温良恭倹譲」と書いた大横物の軸が掛けられました。「温良恭倹譲」は、孔子の人に接する態度を孔子の弟子である子貢が評して言った言葉。(温)穏やかで、(良)素直で、(恭)うやうやしく、(倹)つつましやかで、(譲)ひかえめな態度という意味で、コロナ禍が明けて人をおもてなすことが出来るようになった今、あらためて自戒の念を込めて掛けられたとのこと。花は、季節の草花を大牡丹籠に生け、花の間の大きな床を見事に飾付けされました。床脇には唐物の八角喰籠。書院には、茶祖 栄西禅師の弟子明恵上人がお茶を飲むことの効用を著した茶乃十得に、遠州公がそれぞれに詠歌を添えた巻物が飾られました。掛軸や巻物を拝見し、あらためて茶の湯の原点を見つめ直す機会となり、背筋が伸びる思いになりました。
釜は法隆寺に因んで寺の塔の頂上を飾る九輪の形を模した九輪釜。水指は瀬戸 渋紙手 松浦家旧蔵。渋紙は和紙を貼り合わせ柿渋を塗って乾かした渋紙に色が似ているところから付けられた名。全体は褐色を呈し、正面右の口から胴にかけて黄褐色におびた景色が大変見事です。茶入は
遠州丹波耳付茶入 銘「橋立」
。挽家の仕服が法隆寺裂で、これも今回の茶会のテーマに因んだもの。中興名物の生野(いくの)と同手で本歌に見劣りしない美しい茶入です。「大江山生埜の道乃遠ければ まだふみも見ずあまの橋立」、百人一首の小式部内侍の歌を銘としております。撫肩で小さな耳が付き、正面の肩から底際まで一筋の黒釉がなだれる景色は、歌銘の天乃橋立を連想させます。茶の湯が文化財愛護の架け橋となるべく、席主の思いが伝わってきます。本年は馬越恭平没後90年の節目の年で、
馬越恭平
が所有していた名品の魚屋茶碗 銘「橘」が使われました。この茶碗には面白いエピソードがありますので、次回の茶の美談で詳しくご紹介したいと思います。茶杓は法隆寺がある奈良に因み、遠州公の茶友で春日大社の神職をしていた長闇堂久保権大輔利世作の茶杓。高原杓庵編 茶杓三百選に記載あり。お客様は、何れも美術的価値が高いお道具と、季節や時世、茶会のテーマに因んだ道具組を堪能しました。
王貞治氏が、名碗 魚屋(ととや)茶碗 銘「橘」で一服
薄茶席は東京美術倶楽部が懸釜し、展観席では法隆寺から特別に貸し出された美術品が展観されました。点心席では東京文化財研究所が法隆寺金堂焼損壁画の経緯や状態をレクチャーされました。文化財の近代的な調査・保護が始まった明治初期からその価値は認められており、壁画の劣化を食い止めるために模写や修復作業が行われてきました。昭和24年、まさに修復作業中に画家が使っていた電気座布団が原因で火災となり焼損しました。焼損後の壁画は金堂から取り外され、現在は寺内の収蔵庫で焼けた部材とともに元の形に組み上げられ、厳重に保管されています。法隆寺金堂壁画の芸術的価値を次のように語っています。
■和辻哲郎(1919) 文化史家
「この画の前にあってはもうなにも考えるに及ばない。何も補う必要はない。ただながめて酔うのみ」「この画こそ東洋絵画の絶頂」
■文部省(1920)
「歴史的にまた芸術的にも最も貴重なるものたることは、今更叙述するの必要なかるべし」
■有賀祥隆(2015) 仏教美術史学者
「焼けてもなお至宝」
点心席の様子
東京文化財研究所が法隆寺金堂焼損壁画についてレクチャー
宗教画の最高傑作であり、かけがえのない日本文化財の象徴と言えます。
この度は沢山の皆さまにご支援いただきましたこと、心より感謝御礼申し上げます。東京美術倶楽部では、法隆寺金堂壁画を焼損させたことを直視し、文化財愛護の精神を高めるための教材とし、「法隆寺金堂壁画の保存活用」を継続的に支援していくために、第2回義援茶会を開催する予定です。今後とも温かいご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。
展観席の様子
お席主と茶の美メンバー
左から那須屋 野口明嗣、河善 河合知己、小堀宗実家元、玉鳳堂 山田高久、銀座美術 森田大揮、壽泉堂美術 樫本昌大
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