五島美術館 特別展「古染付と祥瑞 ―愛しの青(blue)―」に寄せて 2025-11-01 UP

文:五島美術館 林 克彦

現在、五島美術館では、特別展「古染付と祥瑞 ―愛しの青(blue)―」を開催しています。国内の各所から作品を集めた古染付と祥瑞の展覧会は、昭和56年(1981)に横浜高島屋で開催された「古染付と祥瑞展 桃山文化と景徳鎮窯の出合い」以来、実に44年振りのことです。また、古染付が景徳鎮窯で焼造されたのは、中国・明時代の天啓年間(1621~27)のことと言われており、今年は石洞美術館が所蔵する天啓五年(1625)銘の「古染付山水図菊形鉢」が焼造されてから丁度400年になります。この記念の年に、「古染付と祥瑞」展により、改めて古染付と祥瑞の魅力を紹介します。

第1回 古染付の魅力
古染付の魅力とは何か、と問われれば、私は下記の3つを上げたいと思います。
1.日本人好みの形につくる
2.願いを描く
3.ありのままの姿を見せる

古染付には「茶器古染付」と「常器古染付」があります。「常器古染付」は中国のやきものの伝統に則った、円形の皿や碗のことで、中国国内向けに焼造された器の内、日本に輸出された器のことです。「茶器古染付」は茶の湯に使用するために、日本からの注文によって焼造されたと考えられています。

この「茶器古染付」は、桃山時代に流行した器物の形に倣ったものが多く、いかにも日本人好みの形をしています。南宋時代の青磁鳳凰耳花生(砧青磁)を模倣した古染付高砂手花生、南蛮芋頭水指を模倣した古染付山水図芋頭水指・古染付葡萄棚水指などがあります。

古染付に描かれた絵はやや黒ずんだ淡い呉須(酸化コバルトを呈色剤とした絵具)で、花や動物、山水図などが描かれますが、そこには中国の人たちの願いが込められています。例えば、魚であれば裕福になること、鴨であれば科挙に合格することを寓意します。山水図は疲れ果てた高級官僚(士大夫)が夢見る理想の世界が描かれています。山水図は、それまでの中国陶磁器にはほとんど描かれていません。古染付の絵は単なる文様ではないのです。

それらに加えて、古染付の特徴の第一は、何と言っても、疵と認識されるものが多数器面に残されていることです。口縁などに見られる釉のほつれである「虫喰い」や、パーツを接いだ痕である「胴継痕」、熔着を防ぐために器の下に付けられた砂粒など、いずれも器本来の美しさを損ねる疵であるはずですが、あえて器面に残されています。意図せずに付いたそれらの疵が、雅趣あるものとして却って日本の茶人たちの心を捉えたのでしょう。

古染付を代表して、五島美術館収蔵の「古染付辻堂香合」をご紹介します。形物(かたもの)(胴形同文様の器が複数存在するもの)で、安政2年(1855)に刊行された『形物香合相撲』では、西方最高位の大関に位置付けられています。藤田家伝来で、類品の中でも、最も堂々とした名品として知られています。田舎の辻に建つ鄙びたお堂に枯れ葉が舞う情景が想像され、多数現れた虫喰いとともに侘びた風情が感じられます。


古染付辻堂香合
一合
明時代・17世紀前半 景徳鎮窯
五島美術館蔵
総高6.5㎝、胴径4.8×4.9㎝


特別展「古染付と祥瑞 ―愛しの青(blue)―」
主催:公益財団法人五島美術館・日本経済新聞社
協賛:東急グループ
会期:2025年10月28日(火)~12月7日(日)
 ※会期中、展示替えがあります。
休館日:毎週月曜日(11月3日、24日は開館)、11月4日(火)、11月25日(火)
URL:現在の展覧会・イベント | 公益財団法人 五島美術館


以下、続く。
第2回 祥瑞の魅力
第3回 「古染付と祥瑞」展の楽しみ方(仮)
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