茶の美談「臘月茶会へようこそ」 壽泉堂 2025-12-14 UP

茶の美参加店が、それぞれの趣向で道具組を考え、持ち回りでお客様へご提案する企画が始まります。単なる展示会ではなく、茶道具が実際に使われる場面を思い描いていただけるように今回は茶室を使ってのご提案です。気になるものがございましたら、どうぞお店へお気軽にお問い合わせください。


封切は壽泉堂さん。神谷町駅から仙石山の坂道を上り、二本目の通りを右に折れてすぐ、左手に見える「仙石山アートハウス」1階に壽泉堂さんのお店がございます。この地域は再開発が進み、今は「麻布台ヒルズの横」と申し上げた方が場所のイメージが湧きやすいかもしれません。


寄付 床

★お店に到着し待合にて身支度を整え、続いて躙り口を潜って本席へ…。


躙り口からの景色

★床の間、点前座を拝見。茶道口よりご亭主登場。

壽泉堂 主人 樫本氏:本日は、年の暮れのお忙しい中お運びくださいまして、誠にありがとうございます。走り回るほど慌ただしい師走に、折角お越しいただきましたので、しばし日常を離れ、ゆっくりとお愉しみのひとときをお過ごしいただければ幸いに存じます。
 
待合の寄付には、近衛信尹(このえ・のぶただ)の和歌を掛けました。信尹は安土桃山時代から江戸初期にかけて活躍した公卿で、本阿弥光悦・松花堂昭乗とともに「寛永の三筆」の一人として知られる人物でございます。読みは、

 暁
 ゆめののち 昨日のことをくぶるにぞ
 おもひやらるる 者のあかつき


夢より覚めた明け方に、自ずと昨日の出来事が胸に去来し、想いがひしひしと迫ってくる──年の瀬を迎え、一年を振り返りながら名残惜しさと、初日の出を待つ心境をあらわしています。  


連子窓から柔らかい光が茶室を包み込む
 
本席の掛物は、宗旦筆
「願成就文日 聞其名号信心観喜」でございます。
「南無阿弥陀仏」の名号に触れ、それを信じる心を得たとき、人は救いと安らぎを実感する──浄土宗・浄土真宗の中心思想を簡潔に示す一文といえます。
十二月は「臘月(ろうげつ)」とも呼ばれ、八日はお釈迦さまが悟りを開かれた「成道(じょうどう)の日」にあたります。そのゆかりに因み、この掛軸を選びました。
 
花は照葉と庭に咲いていた白玉椿を入れております。
花入は瓢(ふくべ)で、仙叟在判「顔子(がんす)」の銘がございます。
永青文庫美術館には、巡礼者の腰瓢を千利休が所望し、上部を切り取り鐶を付けて掛花入とした「顔回(がんかい)」という本歌の瓢の花入が伝来しています。「顔回」は孔子の高弟の名前で、その暮らしぶりは実に質素、わずか一箪の飯と一瓢の汁のみを食し、粗末な庵に住んで学ぶことを楽しんだと伝えられています。命銘は利休の「侘び」の精神を象徴するものでありましょう。
コロナ以前、東京美術倶楽部主催「済美茶会」にて永青文庫さんが茶席を担当された折、済美庵にて「顔回」の花入が用いられ、官休庵・千宗屋宗匠がお花を入れられたことを覚えております。

今回使用の花入は顔回より背が高く、孔子の弟子・顔回の尊称「顔子(がんす)」にちなみ、宗旦の四男・仙叟が銘を付けたものと考えられます。裏には黒漆で銘と在判がございます。煤で黒くなったふくべの侘びた趣が、年の暮れの風情にひときわよく合います。

<<続きは来年>>
 
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