「河善」訪問記 2021-12-25 UP

JR飯田橋西口から、外堀通りを渡り神楽坂へ。神楽坂に入り、一つ目の路地(老舗うなぎ割烹「志満金」の手前)を左に曲がり、次の路地を右に曲がる。この道は両端に旗本 「小栗」と言う姓の武家屋敷があったった事に由来し「小栗横丁(小栗通り)」と言われる。神楽坂と遠ざかるように並行に続く道は、ちょうどお店の裏にあたるため芸子さんが通ったと云われる銭湯や八百屋、豆腐屋があり少し生活感を感じる。最近では再開発が進みお洒落なお店も増えてきた。200mくらい歩くと電信柱に「古美術・茶道具 河善 ここ」と看板が見え、右を振り向くと「GAREDEN TAKANOHA」ビルが聳(そび)える。河善はこのビルの一室にある。

初代 河合三男

河善 初代 河合 三男(1946~2021)

Q.創業までの経緯を教えてください。

A.私の叔父 河合三男は昭和21年栃木県宇都宮市に生まれ、18歳の時に茶道具屋の老舗「近善」に丁稚として修行に入り十年で独立しました。その後、港区虎ノ門で「河善」を開業し茶道具商として営んできました。 私は父のすすめで平成2年から「河善」で修行し、10年後には叔父から「一人前になるには自分で買ったものを売らないと駄目だ」と助言があり、半ば独立した形で商売をはじめ、平成28年には「河善 神楽坂店」を開きました。令和3年に叔父が亡くなったため虎ノ門店は閉め、今は神楽坂で営業しております。
叔父が早くから自分の「眼」で商いをすることを認めてくれたお蔭で物を見る力が養われました。叔父には大変感謝しています。

河善 二代目主人 河合 知己(1966~)

Q.ご主人が美術商になるきっかけを教えてください。

A.たまたま仕事を探している時に、父から「叔父のところへ話だけでも聞いてみたらどうだ」と言われ、美術商になるつもりはなかったのですが軽い気持ちで虎ノ門のお店に行きました。その時に、お茶を一服点ててもらい初めて抹茶をいただきました。叔父から「この茶碗いくらかわかるか?」と聞かれたのですが、当然答える事は出来ませんでした。「この茶碗は井戸茶碗て言うんだよ」と、大変高価な値段を聞きましたが当時はお茶の「お」の字も分からなかったので、”猫の餌やりのご飯茶碗の方が余程良い”と思っておりました。お茶をいただいた後、「明日から来てみるか?」と聞かれ、”まあ良いかなぁ~”と、軽い気持ちで仕事を手伝いはじめたのがきっかけです。当時24歳でしたので、早いものでこの業界に入ってもう30年以上が経ちます。茶道は、叔父の修行先の近善さんが遠州茶道宗家12世小堀宗慶宗匠と昵懇の仲であったため、叔父は小堀宗慶宗匠を師事し、私は13世小堀宗実家元を師事し今もお稽古を続けております。

Q.お店の主な取扱品を教えてください。

A.茶道具屋なので茶道具を専門で扱っております。茶道具の中でも、主に「寂び道具」といわれる時代のある茶道具全般を扱っております。勿論、遠州流を習っておりますので、流儀のものも多く扱っております。

Q.好きな茶道具について教えてください。

A.九州の高取や薩摩などの国焼も好きですが、特に高麗茶碗が好きです。先代が高麗茶碗を好きで、買って来ては自分でお茶を点て、触って、愛でてを毎日繰り返していました。その影響を受けて、私も高麗茶碗の魅力に嵌りました。また、阿蘭陀(オランダ)も好きで集めております。阿蘭陀の話は、また何かの機会にしたいと思っております。

 

Q.茶会や茶事でお客様として呼ばれたり、時には水屋に入ることがあると思いますが今まで一番印象に残っていることを教えてください。

A.井戸茶碗の中でも五本の指に入るであろう「美濃井戸」という茶碗があり、そのお茶碗を使用し実際にお茶を点てるという茶会がありました。その茶会で水屋を仰せつかり、茶碗洗いを担当しました。普段はガラス越しにしか見れないものを実際に手取って見れるということで、心して仕事に取り掛かりました。一日10回席主がお点前をし、お客様が服した後、水屋で清めて拝見に出し、戻ったらまた清めて仕込むという普段であれば単純な仕事ですが、この時ばかりは"この瞬間を忘れないように、心に刻むんだ"という強い思いを持ちながら手伝いをし、名品を自分の手の中で温度を感じる…中々出来ないとても貴重な体験をしました。美濃井戸は、何十年も使っていなかったので、最初はお湯を通ってない白茶けたカサカサな状態から、艶やかな良い顔に変わってくる様子を見ることが出来ました。時間があれば食い入るように見ていたのでとても印象に残っております。

 

Q.茶道具商として一番のやり甲斐を教えてください。

A.何十年も前の話ですが、私が扱った品物をお茶事で使っていただきました。そのとき私は下足番をやっており、茶室でお客様が品物について話しているのを聞くことが出来ました。お客様が帰り、お席主が「君も良いことをしたね」と、仰っていただけたことがとても嬉しく心に残っております。茶道具は、ただ眺めるだけではなく実際に使っていただけるので、お客様に気に入って使って貰えることが茶道具商として最大の喜びの一つでもあります。

 最後にご主人からお店にかかる掛軸と扁額について話を伺いました。

ご主人:この軸は「蝸室(かしつ)」と書かれており、"小さい部屋"という意味です。また、「談空亭」という扁額を飾っております。"全く話の意味がない"という「空談」という言葉がありますが、それを逆さにして「談空」となっております。つまり、"中身のある深い話をする場所"と言う意味になります。この小さい部屋で、中身のある話をし、道具を通してお客様との懸け橋になれれば良いなと思いながら日々仕事に励んでおります。
 世の中のIT化に合わせ、これからはインターネットも活用し蒐集してきた品物をご紹介できればと思っております。気に入った品物があれば、どうぞお気軽にお問合せくださいませ。

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