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備前筒花入 根津美術館蔵
備前筒花入 根津美術館蔵
2022-06-20 UP
備前筒花入 日本・桃山~江戸時代 17世紀 根津美術館蔵
根津美術館 企画展「阿弥陀如来 −浄土への憧れ−」
同時開催 展示室 6「雨中の茶会」にて展示中
2022
年5月28日[土]~7月3日[日]
現在、高い人気を誇る花入のひとつに、備前焼がある。備前焼のしっとりとした肌は、「いかなる花でもよく似合う」といわれる。また、備前焼にはごく微細な気孔があるため、通気性がよく「花が長持ちする」ともされる。見た目の良さは勿論のこと、機能面でも優れている点が、高い評価を得た所以であろう。
なかでも、茶の湯の世界で好まれるのが、こちらのような桃山様式の花入である。高さは22.4cm、口径は9.0×11.5cm。円形の底部から、紐状の土を巻き上げて筒形を作り上げ、口縁部は外側に丸く膨らませてから、内側に突き出している。胴部は上方と下方に横方向の箆目(へらめ)を一周ずつ巡らし、さらに、その二本をつなぐように、縦方向の大きな篦目を前後二箇所に加えている。大胆な篦目は、桃山様式の花入の最も特徴的な装飾である。底部は未調整であり、離着剤として撒かれた土の痕跡が残り、さらに円を描いたような刻書が加えられている。
この花入の胴部を三方向から押して凹ませると備前三角花入となり、また左右に紐状の耳を貼り付けると備前耳付花入になる。いずれも桃山様式の備前花入を代表する器形である。つまり、この筒形はその元の形といえるのである。
ただし、筒形という花入の形自体は、桃山様式が登場する以前の備前焼で、すでに定番といえるものであった。そこで、次は、その桃山様式以前の備前焼花入の特徴や評価について見ていきたい。
備前焼の花入が茶会記に初めてあらわれるのは、『天王寺屋会記』(津田宗及茶湯日記)の永禄10年(1567)12月24日の千利休(せんりきゅう)の会で、「床備前物ニ花入而」と記されたものである。これは備前焼花入の茶会記での初出であるばかりか、和物の陶磁器の花入のうちで、最も早い記録でもある。残念ながら、利休がこのとき用いた備前焼花入の形については、これ以上の記述がないため明らかにならない。
しかし、16世紀の茶の湯で用いられていた備前焼花入は、その他の茶会記の記録と出土資料を対応させると、「筒形(つつがた)」「角形(つのがた)」「瓶形(びんがた)」の3種類と考えられる。「筒形」は高さ15〜18cmほどで、文様のない一重口(ひとえぐち)の円筒形の花入、また「角形」は高さが15 cmほどで、動物の角のような円錐形を逆さにした花入である。いずれも、床の壁や柱、窓に掛けて用いられた。一方、「瓶形」は決まった形状ではなく、槌形(つちがた)や下蕪形(しもかぶらがた)など、液体を入れるための容器である「瓶」の形を成した花入である。卓(じょく)や薄板、あるいは畳の上にそのまま置かれた。
利休の弟子である山上宗二(やまうえそうじ)が、天正16年(1588)頃の名物の状況を記した『山上宗二記』でも、ほぼ同様の結果が確認できる。『山上宗二記』では「侘び花入」の項目に武野紹鷗(たけのじょうおう)旧蔵の「筒形」と、千利休が選別した「竹子形(たけのこがた)」(=「瓶形」)の2点の備前焼の花入が名物として取り上げられているのである。ほかに、和物の花入はみられず、やはり備前焼は、最も早くから高い評価を得ていたことがわかる。
「筒形」「角形」「瓶形」の3種の祖形は、青磁や白磁、古銅など全て唐物である。「青磁筒花入」(三井記念美術館蔵・根津美術館蔵)や「青磁竹子花入」、(根津美術館ほか蔵)、「白磁角花入」(一乗谷朝倉氏遺跡出土)、「古銅細口花入」などがそれである。いずれも、装飾が少なく、シンプルな器形を特徴としている。
このように、筒形の花入は、16世紀の唐物写しの流れのなかで誕生した器形であったのである。
改めて、桃山様式の筒形花入を見てみよう。
寸胴な筒形で、掛け花入に必要な釻(かん)を装着するため、口縁部の下に孔があるものが多いことから、16世紀と同様、床の壁や柱、窓に掛けて用いられたと考えられる。一方、口縁部は内側に突き出し、胴部には大胆な篦目が施され、歪んでいる点が大きく異なる。これらの点は、備前焼の水指でも確認され、桃山様式の茶道具の典型的な特徴と言える。さらに、これまで注目されてこなかった変化に、5〜15cmほど高くなったことが挙げられる。掛け花入の大型化の理由は定かではないが、伊賀や信楽の花入も同じ大きさであることから、やはり桃山様式に含まれると考えられよう。
それでは、桃山様式はいつ生産されたのであろうか。その点を明らかにするのが、京都三条通りの弁慶石町(べんけいいしちょう)出土品である。弁慶石町からは、胴部の一部のみであるが、根津美術館蔵の筒形花入とほぼ同じ花入(京都市指定No, 240)の出土が確認される。
弁慶石町は、1987〜88年の発掘調査で備前や信楽、志野、瀬戸黒など桃山の茶陶と呼ばれる桃山様式の陶磁器が大量に出土した遺跡である。さらにその後、周辺の中之町(なかのちょう)や下白山町(しもはくさんちょう)などからも同様に大量の桃山の茶陶が出土し、文献資料・絵画資料からの研究も進んだ結果、この界隈には陶磁器を扱う「瀬戸物屋」が軒を連ねていたことが明らかになった。そして、出土した陶磁器の多くは、何らかの事情で廃棄された商品であり、共伴した土師器から推測すると、廃棄年代は慶長年間(1596〜1615)と考えられている。したがって、桃山様式の筒形花入も慶長年間頃に販売、そして、おそらく生産されたと考えられる。
唐物写しを元にしながらも、単純な写しから脱却し、唐物にはない日本独自の新しい美意識の中で生まれた桃山様式の筒形花入。筒形花入の誕生そして展開をたどることで、茶の湯の道具の大きな流れが見えてくる。
文:根津美術館 学芸部 下村奈穂子
写真:根津美術館提供
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根津美術館 企画展「阿弥陀如来 −浄土への憧れ−」
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